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01.抜本改革が進められる退職金制度
 近年、中小企業においても成果主義に基づく人事制度改革が進められているが、その中でも退職金制度を抜本的に見直そうとする動きは加速する一方である。まずは2003年に入ってから私が行なった退職金制度改革の実績を見て頂きたい(図表1)。数年前までは退職金制度改革といえば、ポイント制退職金制度の独壇場であったが、最近はその導入事例が激減し、替わって確定拠出型の退職金制度や前払い制度の導入が急増している。この背景には企業経営者が社員に対する債務である退職金を、自社の事業遂行上のリスクとして認識し始めていることが指摘できよう。 ポイント制や最終給与比例方式といった従来の退職金制度は、基本的にすべて、その支給額を約束する「確定給付型」であった。この確定給付型は運用のリスクが企業側にあるため、現在のように運用が低迷した環境では積立不足の発生が避けられず、その追加拠出が企業の大きな負担となっている。この運用リスクを回避するため、最終的な退職金支給額は約束せず、毎月の拠出額(掛金)だけを約束する「確定拠出型」の退職金制度が注目を集めている。中でも中小企業において採用事例が多いのが中小企業退職金共済(以下、中退共)を活用した確定拠出型退職金制度だ。 このような確定拠出型の退職金制度や前払い制度は数年前まではほとんど採用事例がなかったことを思うと、退職金制度改革はまったく新たな段階に突入していると言うことができるだろう。

図表1 退職金制度内容別改定実績
番号 種別 改定内容 件数
1 確定拠出 中退共を用いた確定拠出型退職金制度を導入 9件
2 確定拠出 特退共を用いた確定拠出型退職金制度を導入 2件
3 前払い 既存の退職金制度は廃止し、前払い制度を導入 1件
4 確定給付 ポイント制退職金制度を導入 2件
5 その他 その他小規模の見直し等 2件
※2003年1月より11月の導入実績ベース(大津章敬 個人担当分限定)

02.中小企業の退職金制度を取り巻く環境
 このように抜本的な退職金制度が急速に進められているが、その要因は大きく以下の3点に集約することができる。
[ポイント1]成果主義人事制度の進展
 右のグラフは従来型の退職金制度の典型的な支給カーブである。多くの企業では勤続満3年程度で退職金の受給権が発生するが、勤続20年くらいまではそのカーブは抑制され、それを過ぎると支給カーブが反りあがるように設計されることが多い。また自己都合退職の場合には一定の減額率が適用され、満額の退職金が支給されない。人事制度を社員に対する会社からのメッセージであると捉えた場合、このカーブは何を社員に訴えているだろうか。それは「定年まで勤め上げろ」というメッセージである。それも一部の社員ではなく、すべての社員に対して等しく定年までの長期勤続を要求しているのだ。退職金制度は昭和30年代に人材の定着向上を狙い普及したとされているが、当時は企業の競争力の源泉が熟練労働者の技術に依っていたため、その雇用を引っ張る効果を持つ退職金制度は非常に戦略的な報酬制度であったと言えよう。しかし現在はどうか。優秀な人材層については定年までの長期勤続を期待したいが、短期間で習熟する業務を担当する者など比較的代替性の高い人材については、ある程度の年数で入れ替わってもらう方が良いというのが多くの企業の本音であろう。このように考えると、すべての人材に定年までの長期勤続を要求する退職金制度は現在の企業の人事戦略とはミスマッチを起こしていると考えられる。

 また近年、中小企業にも広がりを見せている成果主義に基づく報酬制度の基本的な発想は、適切な評価を行い、貢献度の高い者に対し、それに見合った報酬をいま支給していこうというものである。つまり現在の貢献度を現時点で短期決済する「Pay Now型」である。これに対しポイント制に代表される退職金制度は現在の貢献度を貯めておいて退職時にまとめて後払いする、いわば「Pay Later型」であり、基本コンセプトレベルでも矛盾が発生してしまうのである。最近、退職金制度を廃止し、毎月の給与に上乗せをして支給する「前払い制度」が急増しているが、これを報酬戦略の視点で解釈すると、退職金制度のコンセプトを見直し、「Pay Now型」に移行しようとする流れの表れであろう。

[ポイント2]退職金支払の問題
 退職金問題に関し、中小企業にとってより切実なのはその支払の問題であろう。退職金制度は日常の経営活動の中ではあまり表舞台に登場しないため、その現状が的確に把握されている企業は決して多くない。右のグラフは愛知県のある製造業(社員数74名)で、今後毎年1%の定期昇給を実施するという条件で毎年の定年退職者数とその退職金支給額を試算したものである。総額では約11億円の要支給額になっているが、この数字は20代の若手社員を含め、現在の社員全員がこのまま勤続することを前提としているため、実際には今後の入退社によって値は大きく変動する。よって現実の問題として重要なのは現在45歳以上の社員が定年退職を迎える今後15年間の予想である。中高年社員に対する昨今の厳しい雇用情勢を考えれば、この年代の社員はほぼ全員が定年まで勤続し、概ねシミュレーションのどおりの定年退職金が発生すると考えることが相当だろう。この事例において今後15年間の定年退職者の状況を見ると人数は39名、その定年退職金予想額合計は約5億5800万円となっている。社員数74名の会社であるから、全社員の半数以上がこれから15年に一斉に定年退職を迎え、巨額の退職金を支給する必要があるのだ。この団塊の世代前後の社員の退職ラッシュに中小企業は耐えられるだろうか。退職金の問題は着手が遅れるだけ、その保証すべき既得権額が膨らむため、対策のための選択肢は狭くなる。いずれにしても必要なのは、少しでも早く現状を把握し、その対策を打つことである。

[ポイント3]企業年金制度の問題
 もっともこうした定年退職者急増の問題も、退職金支払のための十分な資金が準備されているのであればそれほど問題はない。しかし残念ながらほとんどの企業はこの支払準備について、大きな積立不足を抱えているのが現状である。退職金の外部積立としては生命保険会社や信託銀行が取り扱う適格退職年金や中退共などを活用することが一般的だが、近年の運用環境の悪化に伴い、その実質利回りは低下を続け、適格退職年金も当初の5.5%という予定利率に対し、現在は0.75〜1%という水準(一般勘定)にまで落ち込んでいる。先ほどの事例の会社では退職金支給の原資として生命保険会社と適格退職年金の契約を行い、外部積立を行なっているが、その残高は1億6,000万円と今後15年間に必要とされる退職金要支給額の約30%に止まっている。この要因は企業年金の設計の問題、運用悪化の問題など様々ではあるが、いずれにしてもこのままで行けば1億6,000万円という積立は、平成19年から20年に枯渇することが確実な状況である。厳しい経営環境の中で何とか利益を出すべく奮闘している中小企業にとって、こうした状況はあまりに厳しいと言わざるを得ないだろう。

 さらに2001年4月に施行された確定給付企業年金法により、現在の適格退職年金は廃止されることが決定し、2011年3月までの移行期間の間に解約をするか、確定拠出年金や規約型企業年金、中退共などに移行をしなければならない。この適格退職年金廃止のインパクトは非常に大きく、現在多くの企業でこの見直しが進められている。なおこの問題に関しては中小企業の場合には中退共の引継ぎ制度(※1)を利用するのがもっとも現実的であると思われる。
※1 適格退職年金から中退共への引継ぎ制度 適格退職年金契約をしている中小企業の事業主が、平成24年3月31日までに新たに中退共制度に加入した場合、適格退職年金契約の受益者等の持分額を中退共に引き渡すことができる(一定の上限あり)という制度。詳細はこちらを参照。

03.退職金制度改革の選択肢
 以上のように非常に厳しい状況となっている退職金制度であるが、こうした環境の中で、中小企業の退職金は今後、「退職金前払い制度」と「中退共利用確定拠出型退職金制度」が主流になっていくものと思われる。
1)中退共利用確定拠出型退職金制度
 社内資格別などで中退共の掛金を設定し、その運用結果が社員の退職金になるという制度。支給額を約束する通常の退職金制度(確定給付型)とは異なり、掛金しか約束しない(確定拠出型)ため、金利の低下などにより運用が悪化したとしても、会社側に追加拠出など運用のリスクが発生しないという点が最大のメリットとされる。また適格退職年金の引継ぎ制度もこの制度の導入を後押しするであろう。
2)退職金前払い制度
 既存の退職金制度を廃止し、その相当額を給与に上乗せして支給する方法。給与に上乗せして支給するため、社会保険料や所得税の面で不利になるが、究極の「Pay Now型」で、社員の現在の貢献度を短期決済しようとする企業を中心に今後徐々に増加していくことだろう。

 この2つの退職金制度が今後の中小企業のスタンダードになっていくと思われるが、その他にもポイント制退職金制度やキャッシュバランスプランなども、有力な選択肢となるであろう。実務上、退職金制度選択における検討ポイントは以下の3点となる。図表4とあわせて参考にして頂きたい。
[Point1]退職金制度の必要性および存否
 「そもそも当社に退職金制度は必要か。とすればどのような目的で支給するのか。」
[Point2]確定拠出型/確定給付型の選択
 「退職金の運用リスクを会社が負うのか、負わないのか。」
[Point3]制度への貢献度の反映の有無
 「退職金に在職中の貢献度を反映させるのか。」

図表4 退職金制度選択フロー

04.退職金制度改定事例〜中退共利用確定拠出型
 それでは以下では現在、中小企業における最も有力な退職金制度の1つとなっている中退共を活用した確定拠出型退職金制度の改定事例(製造業[社員数100名])を紹介しよう。この企業の基本的な制度改革ニーズは以下の2点であった。
 [ニーズ1]退職金制度に在職中の貢献度を積極的に反映させたい。
 [ニーズ2]今後、退職金支払にかかる運用リスクは最小限に抑えたい。

 上記ニーズを実現するため、以下のポイントに基づく制度設計を実施した。
 [設計方針1]社内資格制度に対応した掛金を設定する中退共利用確定拠出型の退職金制度を採用
 [設計方針2]自己都合退職金に相当する基本退職金は全額中退共より支給
 [設計方針3]制度変更時点における旧規定による既得権額は保証

[新退職金制度の構成]
 新退職金制度の構成は以下のとおりとした。
  −1)基本退職金(自己都合退職金相当額)
  −2)定年加算退職金
  −3)特別功労加算金
  −4)既得権保証調整支給額

1)基本退職金(自己都合退職金相当額)
 今後の退職金制度の中心となる基本退職金部分は中退共により設計を実施した。多くの企業の退職金制度は定年退職金を満額とし、自己都合退職の場合には一定の率を乗じて、支給額を減額する制度になっていることが通常である。しかし中退共には離職理由による減額という仕組みがないため、発想を逆にし、自己都合退職金相当額に相当する部分(基本退職金)を中退共で設計し、定年の場合は別枠(2)定年加算退職金)で上乗せするという設計を行なうことになる。  掛金の設定方法であるが、通常はa)全社員一律に設定する方法とb)社内資格に応じて掛金を設定する方法の2つがある。今回は退職金制度に在職中の貢献度を積極的に反映させたいというニーズであるため、後者の方法を選択した。この会社では1年前に成果主義に基づく人事制度改定を実施しており、その際に5等級からなる社内資格制度が採用された。そこで今回はこの社内資格制度毎に中退共の掛金を設定し、早く昇格し、貢献度の大きい責任ある職務を担当すれば、それが退職金にも反映される仕組みとした。具体的な掛金は以下の表のとおりである。
等級 掛金月額 最速モデル 標準モデル 最遅モデル
J2 5,000円/月 4年 4年 8年
J1 8,000円/月 5年 10年 15年
S2 10,000円/月 5年 10年 15年
S1 14,000円/月 10年 10年 -
M 20,000円/月 14年 4年 -
モデル基本退職金 7,448,610円 5,911,810円 4,436,280円

 この掛金の設計においてはモデル昇格年数(最速・標準・最遅)を設定した上で、当ホームページで配布している「中退共退職金予想額シミュレーション」を使用し、モデル退職金支給額を試算し、設計を行なった。上記最速モデルの場合の基本退職金予想額は7,448,610円となる。但しあくまでも確定拠出型であるため、今後の中退共の運用が変われば、退職金支給額も変動するので注意が必要である。また最終的な試算は全国8ヶ所にある中退共相談センターに依頼して行なって頂きたい。

図表5 中退共利用確定拠出型基本退職金モデルグラフ

2)定年加算退職金
 先ほど述べたように中退共には離職理由による減額という仕組みがないため、定年退職の場合には中退共より支給される基本退職金に一定の加算率を乗じた定年退職加算金を支給することが通常である。加算率の設定は30%程度で一律にする例が多いと思われるが、以下の表のように等級別に設定することもある。これは人材マネジメントの視点から、代替性の高い下位等級の人材群については加算率を低く設定することによって雇用の流動化(リリース機能)を進め、逆に代替性の低い、自主退職されては困る上位等級については加算率を高く設定することによって雇用を引き伸ばす(リテンション機能)ことを目的としている。なおこの加算制度であるが、その事由に会社都合も含めると普通解雇のような場合にも加算を行なうことになってしまうため、定年退職に限定して実施することが多い。
等級 定年加算率
J2 10%
J1 15%
S2 20%
S1 30%
M 40%

3)特別功労加算金
 以上の他、会社の裁量部分として、在職中、特に貢献のあった者については、別枠で特別功労加算金を支給することがあると規定しておくことが多いだろう。

4)既得権保証調整支給額
 上記3つが新退職金制度の内容になるが、既に在籍している社員については旧退職金規程による退職金支給額を、既得権として保証することが必要となる。ここでこの既得権の考え方について簡単に解説することにしよう。

 そもそも退職金は本来的に企業からの恩恵給付であるが、以下の通達や裁判例により「退職金規程や労使慣行が存在する場合には労働基準法第11条の賃金に該当する」として取り扱われている。よって退職金制度を改定する際にはその時点で、旧退職金規程に基づき計算した退職金要支給額を保証する必要がある。我が国で最もポピュラーな最終給与比例方式の退職金制度の場合であれば、「退職金制度改定時点での基本給×旧規定に基づく支給係数」で計算した金額を既得権として保証せねばならないのだ。この保証調整支給額の算出は適格退職年金制度からの引継ぎの有無や中退共加入時の契約の仕方などによって様々な態様があるため、詳細の解説は割愛するが、退職金制度改定においてはこの既得権の保証が非常に重要なポイントとなるとご理解頂きたい。なおこの既得権保証調整支給額の支払は実際の退職時に行なうことが通常である。

「退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し、退職金、結婚手当金等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。」(昭和22年9月13日基発17号)「退職金の法的性格については功労報償説、生活補償説、賃金後払説、と見解が分かれているが、就業規則、労働協約等によりその支給が義務づけられている限り、その支給は労働条件決定の基準たる意味をもつから、退職金は労働基準法第11条の規定にいう労働の対像としての賃金と見るべきものである。」(東京高裁昭和44年7月24日判決)

05.まとめ
 以上、近年の退職金制度改革の考え方および中退共を活用した確定拠出型退職金制度の設計事例について解説を行なった。団塊の世代の定年退職ラッシュを間近に控え、中小企業においては退職金支払が大きな重荷となってくることは間違いない。よってまずは現在の退職金制度の現状を把握し、今後15年程度の中期的な支払予測を行なうことが何よりも重要である。その上で、自社の人材マネジメントに適合した退職給付制度の設計を進めて頂きたいと考えている。


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